6月8日土曜日、今年度第2回の「校長カフェ」を実施しました。今回は23名の保護者の方にご参加いただきました。「校長カフェ」は毎回の参加を前提としたものではなく、10名の保護者の方がはじめての参加とのことでした。今回は、アイスブレイクとして簡単なアクティビティを行った後、全ての保護者の方から自己紹介を兼ねて一言ずつお話をいただきました。その後、課題探究的な学習をテーマとしたグループワークに取り組んでいただき、その成果を全員で共有した後、私から少しお時間をいただいてお話をさせていただきました。前回同様、その概要を全ての保護者の皆様と共有するため、以下に掲載させていただきます。


 今日は、課題探究的な学習に関連するいくつかのありがちなケースを設定して、簡単なグループワークを通して皆さんで考えてみました。今回は、そのうちの課題探究的な学習と進路実現、とりわけ大学受験の問題を取り上げようと思います。

 2019年5月22日水曜日、全国高等学校長協会という会議で、脳科学者の茂木健一郎氏の講演を聞く機会がありました。その講演に関連する同氏の著作に、2019年4月30日に刊行されたばかりの『本当に頭のいい子を育てる世界標準の勉強法』(PHP新書)という新書があります。タイトルはともかく、この本の中に、課題探究的な学習と大学受験との関係を強く示唆する箇所がありますので、少し引用してみます。

 

 僕は「探究学習により、自分の頭で考える力や問題を探究する力である『地頭力の基礎』ができ、伸びしろができる。そのうえで受験勉強をすると、受験的な学力が伸びるスピードが加速される」という仮説を持っています。探究学習をしてから受験勉強というと、一見遠回りをしているようですが、探究学習によって学習を効率化する脳の回路が働き、結果的には短期間で受験科目を伸ばすことができるのです。(同書p.64、太字は原文のママ)

 

 もちろん、この引用は前後の文脈を考慮せずに一部だけを抜き出したものですので、本当かな?と思う方は是非直接読んでみてほしいのですが、このことは私も経験的に感じていたことで、「自ら疑問や課題をもち、主体的に解決する学習」である課題探究的な学習を自分のモノにした子どもたちは、大学受験というイベントも課題探究的な学習の一つとして取り組めるのではないかという点で、とても納得できるものでした。

 ここで進路実現に係るプロセスを少し振り返ってみます。子どもたちは、自分の将来を自ら考える中で、どこかのタイミングで具体的な進学先を強く意識するようになります。それが大学であれ就職であれその他の道であれ、卒業後の進路を設定した時点で自ら課題を設定したことにります。ここでは分かりやすくするために進学したい大学を設定したという想定で考えることにします。課題を設定したら、その解決に向けた探究が始まります。まず、進学先に関するあらゆる情報を集めます。受験科目は何か。論文や面接はあるのか。合格者の得点率はどの程度か。また、情報収集と並行して、自分の強み弱みも考慮しながら進路実現に向けた戦略を立てていくことになります。どの受験科目にどの程度の力を入れるのか。独学でできるものは何か。学校や教師の支援を得る方が効率的なものは何か。塾や予備校など学校外の支援が必要かどうか。今の時代、ネットの活用も選択肢の一つです。また、何をいつまでに終わらせるかといったタイムマネジメントの考え方も重要でしょうし、達成度を確認するための模試をどこに持ってくるかといった進捗管理の考え方も必要になってきます。自分に最も合った勉強法を模索するための試行錯誤(トライアンドエラー)も必要です。そして何より周りに振り回されることなく粘り強く最後までやり遂げる意志も求められます。こうした探究に、ときには一人で、ときには学校の教員や先輩、友人たちと相談、切磋琢磨しながら取り組んでいくのが大学受験をテーマとした課題探究的な学習です。

 社会に出てからの仕事も課題探究的な学習そのものだと言う人もいます。こうして考えてみると進路実現も立派な課題探究的な学習になります。

 なお、茂木氏によれば、探究を深めているときの脳は、フロー状態、あるいはゾーン状態と呼ばれる「集中しているが、リラックスしており、最大のパフォーマンスを発揮する状態」(同書p.36~37)であると述べています。つまり、グループワークをしているか、発表をしているか、レポートを書いているか、何時間取り組んだかといった形式的なものではなく、脳がしっかりと探究しているかどうかが重要で、課題探究的な学習の質が問われることになります。私が前回お話しした課題探究的な学習の「型」についても、脳がしっかり探究するためにはそれなりのセオリーがあるという意味で捉える必要があることを再認識しました。

 さて、脳がしっかり探究する課題探究的な学習とは?課題探究的な学習と知識との関係は?課題探究的な学習は大学や社会に出てからどう役立つのか?など、まだまだ探究すべきことがたくさんありますが、この続きは、次回以降、ご参加いただいた保護者の皆様と一緒に探究しようと思います。

※本文中で引用した文献

〇茂木健一郎『本当に頭のいい子を育てる世界標準の勉強法』、PHP新書、2019年

 


 今回はこのような話をさせていただきました。本日も最後までお読みいただきありがとうございました。

令和元年(2019年)6月10日