平成31年(2019年)4月8日、第5回入学式が行われました。ご来賓の皆様、祝辞をお寄せいただきました皆様に対しまして、この場をお借りしまして、改めて厚くお礼申し上げます。ありがとうございました。

 さて、入学式当日に私が読み上げた式辞を掲載させていただきます。よろしければご覧ください。なお、入学式の様子については「開成トピックス」のカテゴリーに掲載しております。併せてご覧ください。
 


第5回入学式式辞

 新たに市立札幌開成中等教育学校の一員となった1年生の皆さん、入学おめでとうございます。緊張の中、入学意思を表明された皆さん一人一人の声を聞いて、本校で学ぶ決意とそれぞれの個性が私にも伝わり、とてもうれしく思いました。そんな皆さんの入学を心から歓迎いたします。

 また、この佳き日のために、多くのご来賓の皆様のご臨席を賜り、平成31年度第5回入学式を行うことができますことに、心より感謝を申し上げます。ありがとうございます。

 さて、入学生の皆さん。いよいよ、自ら選んだ本校での6年間の学校生活が始まります。本校は、平成27年4月に、札幌市内初の公立中等教育学校として開校した新しい学校ですが、同時に本校は、昭和37年に開校して以来、55年にわたる歴史を積み重ねてきた札幌開成高校の良き伝統を引き継いでいます。そして、本校を札幌開成高校同様に母校として思い、応援してくださる卒業生の皆さんをはじめ、本校にゆかりのある多くの方々にしっかりと支えられています。入学のしおりにも紹介させていただきましたが、本日、皆さんを出迎えてくれた天井画「ドーム…永遠を知れ」やモザイク壁画「我等あり」の記念モニュメントに象徴されるように、開成の理念を皆さんに語りかけてくれる財産が本校にはたくさんあります。高校から中等教育学校へと、学校のあり方は変わりましたが、その根底にある誇り高き開成の理念は確実につながっているのです。

 そこで、本日は、校長として初めて皆さんにお話するに当たり、開成の理念にまつわる二つのお話をしたいと思います。

  

 まず、皆さんから見て向かって右側に掲示されている額をご覧ください。これは札幌開成高校の校歌額ですが、その出だしに「山アリ、空アリ、大地アリ」という文字が大きく書かれています。これは、札幌開成高校初代校長の坂井一郎先生が作られた、本校の校訓でもある「山アリ、空アリ、大地アリ、永遠を知れ」の一節が取り入れられたものです。

 山アリ、空アリ、大地アリ、永遠を知れ」。皆さんはこの校訓からどのようなことを思い浮かべるでしょうか。校訓の制定当時、坂井先生は、「この校訓に解釈や注釈はいらない。生徒一人一人が自由に解釈すれば良い」と言われたそうです。このことは、開成のとても大切な理念の一つとなりました。この校訓は私たちに、誰かが解釈してくれるのを待つのではなく、つまり、誰かが正解を教えてくれるのを待つのではなく、学習者一人一人が自ら考え探究し、自分なりの解釈をすることを促しています。また、自分で考えた自由な発想を他の仲間達とお互いに言葉で示し合うことで、そこから自由闊達な議論が生まれ、こうした議論の中から新たな発想や解釈が生まれる、そんな可能性を私たちに示唆してくれているようにも思えます。

 今私が述べたことは、これから皆さんが本校で日々取り組むことになる「課題探究的な学習」を進めるに当たって、とても重要な視点でもあります。「山アリ、空アリ、大地アリ、永遠を知れ」という校訓は、60年近い時を超えて、私たちに、「学びに向かう際の心構え」とでも言うべき道しるべを示してくれていると私は感じています。ここ開成で学ぶ皆さんには、是非とも、自分で感じた「なぜだろう」を自分の力で考え抜き、友達と自由に議論し合いながら、自分なりの「正解」を導き出せるような探究者であってほしいと願っています。

 次に、皆さんから見て向かって左側に掲示されている本校の学校教育目標をご覧ください。「わたし、アナタ、min-na そのすがたがうれしい」。この学校教育目標は、本校の初代校長の相沢克明先生が定められました。開校以来、私たち教職員は、日々、この学校教育目標が実現している学校づくりに取り組んでおり、開成の新しい理念を表しています。

 「わたし、アナタ、min-na そのすがたがうれしい」。皆さんはこの学校教育目標を初めて目にしたとき、何を感じたでしょうか。なぜ、「わたし」はひらがな、「アナタ」はカタカナ、「min-na」はローマ字なのか、「うれしい」とはどのような感情を表す言葉か。このように、何を感じたかは一人一人異なっていると思いますが、もちろん私はそれで良いと思います。校訓同様、この学校教育目標にも、あらかじめ正解が決まっているわけではありません。

 ただ、せっかくの機会ですので、私がこの学校教育目標を見て大切にしたいと感じたことをお話しします。「わたし」というのは隣にいる「アナタ」とも、「わたし」が属している大勢の「min-na」とも違います。しかし、違いはときに比較するという意識を生み出します。そして違う者同士の比較では、決して全ての人が「うれしい」と感じることにはなりません。「わたし」を「アナタ」と比べたとき、そこには、上だとか下だとかいう意識が働いて、優越感や劣等感のようなものが生まれがちです。「min-na」の中で「わたし」はどの位置にあるのかを意識し出すと、順位というものに一喜一憂することになるかもしれません。

 そもそも違っている者同士を比べ合い、優劣や順位をつけるのではなく、同じ「わたし」の中で、過去の「わたし」と今の「わたし」を振り返って何が伸びたのか、あるいは、将来の「わたし」を想像して、今の「わたし」に足りないどんな力を伸ばしたいのか。「min-na」が、このように自分自身の成長と向き合いながら学校生活を送ることができれば、一人一人の「わたし」の心の中には自然と「うれしい」という感情が湧き上がってくるでしょうし、隣にいる「アナタ」も比べるのではなく、個性を良さとして素直に受け入れられるようになると思います。本校は、「min-na」が常に、そんな思いを持ちながら学べる学校でありたいと願っています。皆さん、是非、比較よりも伸びを実感できる学校、すなわち、「わたし、アナタ、min-na そのすがたがうれしい」が日々実現する学校を一緒に作り上げていきましょう。

 ここで、保護者の皆様に一言申し上げます、本日は、お子様のご入学、誠におめでとうございます。本校では、私たち教職員も学習者として研鑽に努め、お子様の6年間の成長に資するよう努力を重ねてまいりたいと考えております。保護者の皆様におかれましても、是非、私たちと一緒に学びを楽しみながら、皆様のお子様が安心して6年間じっくりと課題探究的な学習に向き合うことができる環境づくりにご協力をお願い申し上げます。

 結びになりますが、本校がこのような挑戦を続けていくためには、本日ご臨席を賜りました全ての皆様のご支援、ご協力が不可欠であります。今後とも、本校に対するご理解を、どうぞよろしくお願いいたします。

 入学生の皆さんが、本日の「うれしい」と思う気持ちを忘れることなく、6年間、わくわくしながら学び続けることを祈念し、式辞とさせていただきます。

 
平成31年4月8日        
市立札幌開成中等教育学校長 廣川雅之