⑫『源氏物語』探究型学習(国語科51期2年次)
2024年度の2年生(2,4,5組)を対象に、『源氏物語』を題材とした探究型学習を古典探究の授業で実施しました。
単元名
『源氏物語』の「若紫」を読み、チームで探究テーマを設定して考察・発表した後、個人でその成果をレポートにまとめる。
伸ばしたい力
a.他者と協働して課題を解決する力
b.収集した情報が妥当なものであるか吟味する力
c.情報を再構成して自分の考えを深める力
d.自分の考えを効果的に表現する力
e.他者の考えを尊重するなど互いの存在についての理解を深める力
f.日本文化・文学を学ぶことによって感性や情緒を豊かにする力
b.収集した情報が妥当なものであるか吟味する力
c.情報を再構成して自分の考えを深める力
d.自分の考えを効果的に表現する力
e.他者の考えを尊重するなど互いの存在についての理解を深める力
f.日本文化・文学を学ぶことによって感性や情緒を豊かにする力
単元の流れ
STEP1.「若紫」の現代語訳に取り組む。
STEP2.気になる点・疑問に思った点をスプレッドシートに入力する。
STEP3.入力されたスプレッドシートを参考にして、2~4名のチームを組む。
STEP4.チームで探究テーマを設定する。
STEP5.探究テーマについて情報を収集し、チームで考察する。
STEP6.考察した内容をチームで発表する。
STEP7.個人でレポートを作成する。
STEP2.気になる点・疑問に思った点をスプレッドシートに入力する。
STEP3.入力されたスプレッドシートを参考にして、2~4名のチームを組む。
STEP4.チームで探究テーマを設定する。
STEP5.探究テーマについて情報を収集し、チームで考察する。
STEP6.考察した内容をチームで発表する。
STEP7.個人でレポートを作成する。
STEP1(12時間)
提示された重要語句などをもとに、ペアを作り各自で訳を進めました。その後、教員からの解説を聴き、自分たちの訳と照らし合わせながら知識技能を身に付けていきました。
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STEP2,3(2時間)
現代語訳を終えた後、「気になったこと」と「その理由」をスプレッドシートに各自で入力しました。「当時の美の基準」「当時の僧・尼の社会的な地位」「のぞき見は犯罪ではないのか」「なぜ光源氏は藤壺に執着しているのか」「光源氏が色んな人からモテていたのはなぜか」「貴族と庶民の暮らしの違い」など、様々なテーマが挙げられていました。
他の人の入力を閲覧しながら、一緒に取り組みたい人を見つけて声を掛け、4人前後のチームを作っていきました。
STEP4,5(7時間)
チームで「探究テーマ」を設定し、「調べなければいけないこと・整理しなければいけないこと」を洗い出していきました。なお、Google ClassroomにてGoogleドキュメントを配布し、チームで共同編集を行いました。
情報収集はCiNiiや書籍を拠り所にするよう指示を出しました。書き手が明らかではないweb上の情報はNGとし、引用・参考文献を必ず明示するように伝えました。
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STEP6(2時間)
考察した内容をチーム毎に発表しました。各チームの発表時間は5分とし、以下の2点をねらいとしました。
・個人レポートに向けて、話し手は教員とのやり取りから思考を整理・深化するきっかけを得る。
・個人レポートに向けて、聞き手は他のチームの発表を聞くことによって新たな発見を得る。
・個人レポートに向けて、話し手は教員とのやり取りから思考を整理・深化するきっかけを得る。
・個人レポートに向けて、聞き手は他のチームの発表を聞くことによって新たな発見を得る。
探究テーマ抜粋
1.平安から現代までの美の基準の変遷
2.対照的な運命を辿った葵の上と若紫の生涯から平安時代の結婚観を知る
3.源氏物語において髪の毛の描写が多いのはなぜか
4.源氏物語を取り巻く藤壺・葵の上・若紫の関係性から、それぞれの心情を読み解く
5.「垣間見」を垣間見る
6.葵の上の死因と物の怪について
7.平安時代の和歌の役割
8.仏罰とはどのような罰なのか
9.平安時代や源氏物語における婚姻制度と夫婦の生活形式とは
10.光源氏を主軸として若紫と明石の君の対比から考えられる恋愛観について
発表後、各チームに対して、教員から講評と投げかけを行いました。
〔教員からの講評スライド〕
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STEP7(3時間)
他のチームの発表や教員からの講評を踏まえて、個人レポートの作成に取り組みました。チーム発表の内容を引き継いでもOK、テーマを再設定してもOKとしました。いずれにせよ、「チーム発表から考察が深まっているか」ということをポイントに、本単元における最も重要な言語活動であることを生徒に伝えました。
なお、授業時数としては3時間ですが、提出締切は1か月後としました。
振り返り
「仮説(伸ばしたい力)」や「言語活動の充実」と照らし合わせ、単元全体の振り返りを行いました。(回答数:104名)
〔仮説〕
〔言語活動の充実〕
1と2を回答した生徒の多さが印象的ですが、3と4をつけた生徒の記述を見てみると、以下の内容が述べられていました。
a.他者と協働して課題を解決する力
・会話が必要最低限で、個々の作業になっていたから。
・グループワークで原稿を書いたりドキュメントを作成するのに、班員全員で手分けすることはなくすべて自分がまとめて行ってしまったので育成されなかったと感じた。
・グループワークで原稿を書いたりドキュメントを作成するのに、班員全員で手分けすることはなくすべて自分がまとめて行ってしまったので育成されなかったと感じた。
b.収集した情報が妥当なものであるか吟味する力
・妥当であるかそうでないかの判断基準が自分の中で定まらず全て曖昧なままにしてしまった。そこもグループでこれはどうだろう、と協力しながらできれば自分の中の基準が少しは出来上がっていたかもしれない。
・テーマについての資料を調べた際にあまり多くの文献がなかったり、自分たちの情報収集の力が足りなかったりすることで、複数の情報から照らし合わせるようなことをあまり出来なかったため。
・テーマについての資料を調べた際にあまり多くの文献がなかったり、自分たちの情報収集の力が足りなかったりすることで、複数の情報から照らし合わせるようなことをあまり出来なかったため。
c.情報を再構成して自分の考えを深める力
・いろいろな参考文献を見て情報を整理できたのは良かったけど、それらのつながりを見つけてかつ自分たちの発表に活かせるように繋げることができなかったと感じ、一つ一つ独立した情報を集めすぎたから。
・情報同士のつながりを意識することができず、根拠にしては弱い、主観的な意見になってしまったから。
・情報同士のつながりを意識することができず、根拠にしては弱い、主観的な意見になってしまったから。
d.自分の考えを効果的に表現する力
・全体発表の考察を考えていたときは課題設定と得られた情報から考えをまとめ、言語化することができていたが、個人レポートでは得た情報から思ったこと、感じたことをうまく言葉にすることができず効果的な表現はできなかったのではないかなと思った。
・調べた事実は書き出すことができたが、ただの情報の紹介になってしまった。なぜそのような恋愛観になったのか人物の生い立ちや社会の規則から推測する力が足りなかった。
・調べた事実は書き出すことができたが、ただの情報の紹介になってしまった。なぜそのような恋愛観になったのか人物の生い立ちや社会の規則から推測する力が足りなかった。
(e,fは3と4の理由を問わなかったため割愛)
今回の単元では育成されなかったと回答しているものの、自らの課題に気付き、改善を図ろうとする意欲が見て取れる点において、注目すべき記述だと言えます。
最後に、各生徒による単元全体の感想をchatGPTでまとめたところ、次の結果が出ました。
1.協働と自己成長
多くの生徒が、グループワークを通じて他者と協力しながら進める楽しさや達成感を感じ、協働の大切さを実感していました。また、自分では気づかなかった新たな視点を得たり、他のメンバーの意見や情報を取り入れることで、自分の理解が深まったと感じています。
2.考察とテーマ設定の難しさ
個人の考察を深める過程で、テーマ設定の自由度や難しさを感じた生徒もいました。特に、自由にテーマを決めることができた反面、適切な情報を収集することや、テーマに対する考察をどう進めるかに苦労し、それを通して課題設定能力や探究心が伸びたと述べる生徒が多かったです。
3.古典に対する理解の深化
古文に対する苦手意識があった生徒もいましたが、グループ活動や個人レポートを通じて、古典文学の魅力や時代背景を深く理解することができたと感じています。特に『源氏物語』の登場人物の心情や当時の文化を知ることで、現代との違いに驚きや楽しさを感じ、学ぶ意欲が高まった生徒が多く見られました。
4.レポート作成スキルの向上
語彙力や文章構成力の不足を感じた生徒がいた一方で、グループ発表から得た内容をもとに個人レポートで新たな情報を追加したり、構成を考えることを通じて、レポート作成のスキルが向上したと感じた生徒も多くいました。
今回の源氏物語の学習を通じて、多くの生徒が古典に対する理解を深め、興味を持つことができました。特にグループでの共同作業は新鮮で、互いの意見や価値観を共有することで、個人では得られない視点や考えに触れる機会になりました。これにより、知識や理解を深めるだけでなく、自分の語彙力や文章力の向上にもつながったと感じる生徒が多かったです。
また、古典や考察に苦手意識を持つ生徒については、最初は戸惑いを感じながらも、時間をかけて取り組むことで理解を深めることができたようです。グループ活動から個人レポートへと段階的に進めることで、調査力や考察力が向上し、知識の蓄積だけでなく、他者との協力や情報の取捨選択の重要性も実感できました。
さらに、自分でテーマを設定する自由度の高さが挑戦的であり、難しさを感じつつも、自主的に課題に取り組む力が養われました。平安時代の文化や価値観に触れることで、現代との違いを学び、歴史的背景を踏まえた考察の深さも体験しました。生徒たちは、このプロセスを通して、古典に対する苦手意識を克服するだけでなく、自分の視野を広げる貴重な学びの場となったと感じています。また、学習を通じて得た考察力やレポート作成力を、今後も活かしたいと考える生徒が多く見られました。
市立札幌藻岩高等学校国語科 對馬光揮
登録日: 2024年10月29日 /
更新日: 2024年10月29日